旧統一教会問題の被害者等支援策に関する提言

2024年1月19日、旧統一教会の被害者支援に関する関係閣僚会議が開催されました。まず何よりも、この問題に関心を寄せて下さる多くの皆様、そして解決のために奔走して下さる支援者の皆様に、当事者として心より感謝を申し上げます。

私たちはそれぞれ、親が旧統一教会に入信することで、その人生に様々な影響を受けて来た「統一教会2世」です。各自、これまでに様々な形態を通じ、この問題に関する発信や証言を行って参りました。それと並行し、今後行われるべき被害者・当事者への支援について、各自の知見や経験を活かしつつ意見交換を重ねて参りました。

この間、関連する当事者団体においても、各種の支援活動や政府への働きかけを積極的に推進して下さっております。そうしたご尽力に対して敬意を表するとともに、私たち団体等に属さない個人の当事者としても、意見やアイデアを表明したいと考えましたので、このような提言を作成いたしました。

もちろん、ここに名を連ねた方以外にも様々な意見を持つ多数の当事者がおられます。支援の策定にあたっては、そうした多様な当事者の声が適切に反映され、より実効性あるものとして推進されることを願っております。

そして旧統一教会問題の当事者のみならず、抑圧を受ける全ての人に対して救済・支援が届き、誰もが等しく健やかに暮らすことのできる社会を形成するための一助となることを、私たちは望むものであります。

2024年 1月 21日
冠木 結心
井田  雫
奥野 まき
田村 一朗
(いずれも活動名)

※文責は田村一朗にあります。本件に関するご連絡等はこちらへお願いいたします。

以下の5点について提言を行います

1.支援にあたる専門職支援者の確保および養成

まず第一に、この問題に関わる対人援助の専門職(心理士・社会福祉士等)を大幅に増やすことに取り組んでいただきたいと考えます。

旧統一教会の離脱者の中でも、これまでに専門職によるカウンセリング等の支援を受け、心理的回復や社会適応に繋がったケースが存在します。支援者は必ずしも宗教や「カルト」の問題を専門とする方とは限りませんが、その人にとって何が必要かを見極め適切な支援を行うことで、精神的な回復や社会的自立に繋がったものです。

そこで、既に心理士・社会福祉士等のスキルと資格を持つ方には、宗教や「カルト」の問題を学んだ上で支援に携わる機会を提供すること。そして、それによって適正な報酬を得ることの出来る体制を整えていただきたいと考えます。

現状では、対人援助の専門職の数そのものが足りていないように思われます。旧統一教会の被害者等支援に関する法律が施行されたことを契機とし、こうした人材を新たに養成する事業にも予算を投じ、その体制を整えていただきたいと願います。また、携わる方々の大幅な待遇改善も欠かせません。

それは、ひとえにこの問題のみならず、様々な人権問題や災害等によって心身共に辛い境遇にある方々の救済・支援にも繋がり得るものであり、そうした観点からも、政府には大胆に取り組んでいただくことを望むものです。

2.「カルト」問題に対応する専門的な組織の創設

日本弁護士連合会より 2023 年 11 月 15 日に発出された意見書「カルト問題に対して継続的に取り組む組織等を創設することを求める提言」の通り、「カルト」を専門に扱う機関を創設し、関連する情報を集約・管理したり支援に関わる各省庁や民間支援リソースとの連携を取る機能を持たせることを、私たち当事者としても求めます。

これは2023年12月13日に放送されたNHK「時論公論-旧統一教会問題 被害者救済法と今後の課題」において、解説委員の清永聡氏が指摘している内容とも重なります。省庁間の「縦割り」によって要支援者が相談窓口を転々としたり、声を上げることの出来ない被害者にも積極的に手を差し伸べられるよう、この問題に対して責任と専門性をもった公的な機関が設置されることが望ましいと考えます。

3.ピアサポート・居場所づくり支援

離脱した当事者によるピアサポートの環境作りにも、専門職による助言・指導といった支援が求められます。

旧統一教会に限らず、こうした団体の離脱者にとって、同じ境遇を通過した人同士が交流したり、境遇を分かち合える環境が一般社会に存在することが、精神的安定をはかる上で重要なものとなります。(「だから知ってほしい『宗教2世』問題」 p.330 参照)

ただし、当事者のみのピアサポートやコミュニティーの場合、同じトラウマを抱えた者同士となり、ありがちな人間関係のトラブル等に対しても適切に対応できない場合も容易に考えられます。そこで、こうしたピアサポートについても心理士などの対人専門職に関与していただき、助言や指導をいただくことのできる体制があることが望ましいと考えております。

4.当事者の多様な知見の活用

今回の支援策に盛り込まれた元信者・当事者の参与に関し、既に出版されている当事者の手記等も教材・参考資料として活用していただくことを望みます。

特に旧統一教会の場合、信者の世代・国籍・性別等による教団内の区分によって、それぞれが経験した内容や被害の様相に大きな違いがあると考えられます。そうした多種多様なパターンを支援者に把握していただくことで、より適切な支援に繋がると考えています。

旧統一教会2世当事者の著作を例に挙げると、「信仰2世」として韓国祝福の体験を綴った「カルトの花嫁」(冠木結心 著, 合同出版, 2022)や、「祝福2世」としての半生を綴った「小川さゆり、宗教2世」(小川さゆり 著, 小学館, 2023)が代表的です。また「だから知ってほしい『宗教2世』問題」(塚田穂高・鈴木エイト・藤倉善郎 編著, 筑摩書房, 2023)には、さまざまな境遇の「宗教2世」17名の手記も収録されています。

以上はあくまで一例ですが、こうした当事者による手記の活用も検討いただくことを望みます。

5.誹謗中傷・二次被害対策

声を上げた被害者が誹謗中傷を受けたり威圧されることが多々あります。そういった二次被害から被害者を守る施策にも力を入れていただくことを望みます。

この間、勇気を振り絞ってやっと声を上げた被害者が誹謗中傷を受けたり、発言できないようにするために威圧されるといったことが度々繰り返されてきました。 そういったセカンドレイプ的な被害によって、さらに心を折られたり、二度と声を上げられなくなってしまった事例も私たちは多数目にしてきました。

 誹謗中傷被害を受けないような対策や支援も、傷を負った被害者が1日でも早く平穏な生活を送るためには不可欠なものであると考えます。

抑圧や人権侵害を受ける全ての人々が解放され元気を取り戻した時、その姿・生き方そのものが国益に繋がるものと信じております。今回の支援策が旧統一教会問題の当事者を越え、やがてそうした人々全ての支援にまで行き届くものになることを、私たちは願っております。

そのような観点からも、政府には今回の支援策を強力に推進していただくことを切に望んでおります。

以上

※文責は田村一朗にあります。本件に関するご連絡等はこちらへお願いいたします。