「宗教2世問題」に関する提言―’24.7.12「統一教会」野党国対ヒアリング

2024年7月12日(金)開催の第66回「統一教会」国対ヒアリングに参加させていただきました。

文科省・法務省・消費者庁・警察庁・こども家庭庁の各省庁からご担当にお越しいただく中、「宗教2世」支援に関して、直接意見や要望をお伝えすることが叶いました。

短時間で多くの内容を詰め込み過ぎてしまい、拙い話し方で分かりにくい点も多々あったかと思います。そこで内容を加筆・再構成のうえ文字化し、ブログに掲載することにしました。

目次

「宗教2世問題」の本質

詳しい内容は上の記事をご参照いただければと思いますが、特に家庭・親子の隙間に入り込んだ宗教による負の影響こそが「宗教2世問題」の一番のポイントという部分は強調したいと思います。

「被害」と「教団の所業・責任」が問題の第一義

とはいえ国や政府にとって宗教の問題は、政教分離の原則もあり特にセンシティブにならざるを得ない領域です。でも宗教が絡む抑圧や人権侵害の問題を「信教の自由」や「宗教弾圧」にすり替えることはできませんし1対策や被害救済が求められる人権の問題であることは間違いありません。

また「宗教2世問題」は親子・家庭問題として扱われることも多いのですが、そこに宗教教団の影響がどの程度あったのか。これを問うことが第一義であり、被害の救済や防止に繋がりうるものと私は考えています。

それらが「宗教弾圧」「信教の自由の侵害」に繋がってはならないのは言うまでもないことですが、この辺の具体的な線引きは難しい。これは政府だけでなく、あらゆる専門職も含めた日本社会全体で考え論じ、コンセンサスを形成していく必要があると私は考えています。

統一教会における2世問題の独特さ・深刻さ

また、当事者の1人として旧統一教会における2世問題の独特さと深刻さは指摘したい部分です。表面的には親の高額献金による貧困や養子の問題等がクローズアップされてきましたが、その本質は教団による抑圧的な教導と、それがもたらす精神的被害にあると私は考えています。

現在、旧統一教会の2世問題にもっとも詳しく触れられているのは、ジャーナリストの鈴木エイト氏による「統一教会と2世問題」2だと思います。ここで言及されている次の2点は、統一教会における2世問題の特徴を的確に捉えているといえます。

  • 2世の中に”身分”が存在する(「神の子」祝福2世、「サタンの子」信仰2世)
  • 人間のコアな部分にまで教えや戒律が入り込む

旧統一教会の信者2世には、生まれながらに“神の血統”を持つとされる「祝福2世」と、“堕落の血統”とされる「信仰2世」という区分が存在します。これらは2世のアイデンティティーを規定する要素としてコアな部分に入り込み、事実上の”身分”として作用します。また教団内での礼節儀式、特に結婚においても、これに基づいた区別がなされます。

また2世は教祖家庭を支える存在として、勉学・スポーツ・人格すべての面で誰よりも秀で、その姿を周囲の世人に見せることで伝道教化すべきという思想が存在します。そこから教団による2世教育プログラムが組まれ、2世は基本的に全員が参加するという方針も取られていました。3

以上のようなことが自由恋愛の禁止・結婚の規制・教団行事への強制参加・進路選択の限定等に繋がり、ひいては精神的な圧迫にも結び付き得るものです。親子・家庭の問題として片付けられることではなく、教団がどのように信徒・2世を扱い、教導してきたのかが問われるべきです。この部分は今後、より詳しい解明が必要であると考えます。

統一教会2世有志による被害者支援に関する提言

2024年1月19日、政府により“「旧統一教会」問題に係る被害者等への支援に関する関係閣僚会議”が開催されました。これを受けて統一教会2世の有志4名にて提言を発出し、ホームページ上に公開しました。

提言は以下の5点について挙げましたが、これらは統一教会や宗教2世問題だけでなく、あらゆる人権問題への対応にも将来的に応用が可能と考えられるものを意識して選定しています

  1. 支援にあたる専門職支援者の確保および養成
  2. 「カルト」問題に対応する専門的な組織の創設
  3. ピアサポート・居場所づくり支援
  4. 当事者の多様な知見の活用
  5. 誹謗中傷・二次被害対策

提言の全文はこちらをお読みいただければ幸いですが、今回特に強調したいのは①支援にあたる専門職支援者の確保および養成⑤誹謗中傷・二次被害対策となります。

支援にあたる専門職支援者の確保および養成

相談者の一次対応にあたる支援者には、やはり専門職の知見が必要になると私たちは考えています。

相談者のおかれた環境や被害の類型は、出身教団や年代・性別といった要素によってある程度の一般化は可能ですが、各個人の置かれた状況はそれぞれ異なります。特に、精神的な被害に遭った相談者の場合、自身でも問題を整理できず混乱していることが考えられます。相談者に寄り添いつつ、問題を把握・整理し、適切な支援に繋げていただくには、心理職や社会福祉士等といった対人支援専門職の技能が不可欠となるでしょう。

そうした方々に問題解決の現場にコミットしていただけるような効果的な支援を、国に対して望みます。具体的には、各専門職の養成と大幅な待遇改善について、大胆にリソースを投じていただきたいです。

こうした専門人材は、統一教会問題や宗教2世問題に限らず、あらゆる場面で活躍し、日本社会の構成員をサポートしていく大きな力になるであろうと私たちは考えています。

スクールカウンセラーの重要性

また、未成年の被害防止・救済にあたっては、特にスクールカウンセラー(SC)の役割は極めて重要になると考えます。学校教員の多忙さも社会問題として挙がる中、これ以上現場の教員に宗教虐待について学んで対応して下さいというのは無理があります。

SCの大量雇い止め報道4も見られますが、この方々も先に述べた「対人支援の専門職」です。特に未成年の保護に関しては、手厚い施策が求められます。そういった意味においても、SCの雇用を守ることと育成そして待遇改善は、特に重視していただきたい部分です。

誹謗中傷対策―人権機関の創設について

そして、看過できない問題、声を上げた被害者に対する誹謗中傷です。

昨今、あろうことか教団側の顧問弁護士が被害者に対して常軌を逸した誹謗中傷表現を繰り返し、職務上知り得たと考えられる被害者の個人情報まで開示しました。こうしたことは被害者に更なる精神的被害をもたらす侮辱的行為であり、容認できるものではありません。

今回のヒアリングでは、特にこうした誹謗中傷の問題が大きく取り上げられる中、対策の1つとして日本における人権機関の創設にも話が及びました。国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会がジャニーズ問題等を念頭に人権機関を創設する勧告を行ったことや5、他国の例としてフランスのミヴィリュード(MIVILUDES)や韓国の国家人権員会といった機関が参考になり得るという見解6が紹介されました。

国家から独立した人権機関によって、誹謗中傷や宗教2世問題のみならず、あらゆる人権問題への対応が可能となることは、かねてより指摘されています。これには行政だけでなく、立法(国会議員)の取り組みも求められるところです。ぜひ検討をお願いしたい旨、お伝えさせていただきました。

おわりに―事件から2年目にあたって

この間、問題に取り組み解決に向けて奔走してくださる皆様、関心を持って下さる皆様には、当事者の1人として心から感謝を申し上げたいと思います。

宗教2世の問題については、支援の方針が示され虐待の調査等が始まったものの具体的な体制の構築が課題として残っております。

この部分を政府に取り組みを求めるとともに、私も当事者の1人として何ができるのか考え続け、できることを模索しながら行動をしていく所存です。

‘24.7.20 ジャーナリストの多田文明さんによる詳しいレポート記事がアップされています。私の発言以外にもこの席で論じられた内容が詳細に報告されています。


  1. この点は「世界平和アピール七人委員会」においても明確に指摘されています
    「少なからぬ国民を脅し、騙し、強制し、多額の財産を奪い、家族を崩壊させてきた宗教団体の存在は間違いなく社会の治安をゆるがす問題であり、これを信教の自由で語ることはできない。」
    2022 154J 搾取・収奪常習を問われる集団に寄生する政治家の即退場を求める(2022.8.3発出) ↩︎
  2. 『だから知ってほしい「宗教2世」問題』,第3章 ↩︎
  3. 特に2000年代前半、次世代のリーダーである教祖3男(文顯進氏)を支える2世指導者を養成するという方針のもと、教団は「2世7年路程」という苛烈な訓練プログラムを組みました。以下のTwitter投稿をご参照下さい。
    https://x.com/InsaengMwoisseo/status/1806169516365520949
    https://x.com/InsaengMwoisseo/status/1806088138634432688
    https://x.com/masaki_kito/status/1806202483129397453 ↩︎
  4. 東京都教委が250人大量「雇い止め」 スクールカウンセラーを3月末 契約更新の選考基準も不透明|東京新聞(2024.3.5) ↩︎
  5. ジャニー喜多川氏による性加害問題 賃金 男女格差など 人権問題を指摘 国連人権理事会の作業部会 | NHK ↩︎
  6. 「解散命令請求」だけで統一教会問題は解決しない フランスや韓国の「組織的な人権侵害」への対応 | 東洋経済オンライン ↩︎
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田村 一朗(仮)のアバター 田村 一朗(仮) HN: インセム(인샘)

旧統一教会(世界平和統一家庭連合)
2世元信者 信仰2世(ヤコブ)

この教団に長く身を置いてしまったことを悔いています。統一教会とは何なのか。なぜ信じたのか。この教団は日本社会にどんな影響を与えたのか。問い続けていきたいです。

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