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“脱・血統”論 2――統一教会2世の区分と血統教義

旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の「宗教2世」がもつ最大の特徴は、いわば “生まれによる区別” が存在することです。これにも核心教義「血統」が大きく関係しています。
統一教会における2世の区分──「祝福2世」と「信仰2世」
統一教会の信者子女には「祝福2世」と「信仰2世」という区分があります。これは「血統転換」と「原罪の清算」という教義を背景としており、本人の信仰の有無にかかわらず、その生まれによって「霊的な出自」が決められてしまうというものです。
更に、この区分は単なる形式的なものではなく、儀式・儀礼や教育、そして結婚といった教団内の制度において機能しており、事実上の “身分” になっています。
教義的な背景
既に知られてきているように、統一教会においては人類始祖がサタンを中心とした偽りの結婚によって堕落して「サタンの血統」を繁殖したため、その血統を清算し「神の血統」に生まれ変わることが信仰の目的とされています。
そのために必要となるのが「真の父母」(教祖夫妻)による「祝福結婚」と呼ばれる一連の儀式です。全ての人類はこの「祝福結婚」を通じてのみ堕落した血統から神の血統に転換され「原罪」が清算できるとされています。
「祝福2世」と「信仰2世」の区分
そして、信者2世の区分は、この「原罪」を生まれながらに持つか否かによってなされます。
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ひとことでいうと、祝福結婚という「血統転換」の儀式を受けた夫婦から生まれた信者子女が「祝福2世」、それ以外の信者子女は「信仰2世」となります。
一連の「血統転換の儀式」(図中①~⑤)を正しく受け、原罪を清算したと認定された夫婦から生まれた子は、最初から原罪のない存在、すなわち本然の神の血統をもつ「祝福2世」として扱われます。
それに対し「信仰2世」は、親が「血統転換」の儀式を受ける前に生まれた子女です。片親のみが信者の場合でも該当するため1様々な類型があるものの、共通するのは1世や非信者と同じように生まれながらに原罪を引き継いでいるとされることです。
信仰2世と祝福2世が混在するケース
また、家庭内に「信仰2世」と「祝福2世」が混在するケースも存在します。
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「血統転換の儀式」は夫婦単位でのみで成されます。そのため、既に子女をもつ信者夫婦が「既成祝福」を受けて「血統転換」をなしても、その子女「信仰2世」が同時に原罪の清算を受けるわけではありません。2
しかし、原罪を清算された後に新たに生まれた子女については、生まれながらに原罪を持たないので「祝福2世」とされます。
つまり、先天的に「神の血統/原罪がない」とされるのが「祝福2世」、「サタンの血統/原罪がある」とされるのが「信仰2世」ということになります。
本人の信仰の有無を問わない
また、この“区分”は「血統」と「原罪」という先天的な要素によってなされるため、本人の信仰の有無とは関係ありません。どんなに教会に通っていなくても、祝福結婚を通じて生まれた2世は、教団内で「祝福2世」として扱われます。
これは信仰2世も同様で、両親もしくは片親が信仰を持っていれば、その子女は「信仰2世」となります。
ただ、この「信仰2世」については「本人が信仰をもたなければ信仰2世ではない」と思っている人が信者の中でも存在するようで、その解釈は「祝福2世」のように一定ではない現実もみられます。
しかし、教団が発刊した公式的な書籍には「両親、または片親が信仰をもつ場合は、その子女が全て信仰二世の範疇に入る」と明記されています。3
もっとも、すべての人類が「神の血統」に転換されなければならないという教義である以上、たとえ本人に統一教会の信仰がなくても信者の子女すべてを教団が「2世」として認知するのは当然といえます。
“身分”差による精神的・社会的被害
問題は、この“区分”が事実上の“身分”となり、4統一教会の2世たちの人生に様々な影響を及ぼしてしまうことです。
詳細はまた改めて書こうと思いますが、最大の問題は、やはり結婚の制限といえるでしょう。
「祝福2世」は、原則として原罪のない2世同士でしか結婚できません。51世のように「血統転換」の儀式は必要ありませんが、堕落する前の人類始祖が本来すべきであった「本然の結婚」しか道がなく、逸脱は許されません。
「信仰2世」の場合(範疇が広いので様々なケースが考えられますが)親の果たせなかった未婚での祝福を受けて「血統転換」を成し、「神の子」を産むよう親から強く願われる場合が多いです。6
両者とも、事実上「婚姻の自由」「信教の自由」が認められていないのですが、これも「血統」の教義を制度として展開することに起因しているといえます。
「血統」という“アキレス腱”
本来であれば「血統」や「原罪」といった先天的な要素で、信者子女の「“いのち”の価値」が分けられるべきではないでしょう。
(教祖一家や高位層幹部がどうであるかはともかく)教団の現場レベルでは、なるべくこの“身分”が信者間の“差別”にならないよう、一定の苦心と配慮がある形跡は見て取れます。7
しかし、「血統」教義を根本的に否定するか新規の勧誘(伝道)をストップしない限り、この “身分” はいつまでも存在し続けることになります。少なくとも現代の日本社会において、このような“身分”の考え方は受け入れ難いものですから、新規入信者の獲得にはネックになる部分といえます。
このように「血統」の教義は、統一教会における“秘蹟”であると同時に“アキレス腱”ともなり得るものです。
おわりに
統一教会の2世には事実上の“身分”が存在し、その根底には「血統転換」と「原罪清算」という統一教会特有の教義が深く関わっています。
「宗教2世」問題が社会的に注目される中、こうした教義に基づく先天的な区分こそが、統一教会2世の苦しみの核心にあると考えています。この問題の根源を明らかにしなければ、真の意味での支援や解放にはつながっていきません。そしてそれは、安倍元首相銃撃事件の背景とも無縁ではない重要な論点です。8
当事者にとってはデリケートな問題であり書くことにためらいもありましたが、「血統」教義の構造とその弊害を正確に伝えることは、今を生きる他の2世たち、そしてこれからの社会のためにも必要だと考え、今回の記事を公開することにしました。
もし、ご意見や誤認の指摘等があれば、こちらからお知らせいただければと思います。
お読みいただき、ありがとうございました。
- 世界基督教統一神霊協会 家庭教育局 祝福教育部 編 『二世祝福ガイドブック : 後天時代の祝福結婚モデルを目指して』 (光言社, 2011) p.207 ↩︎
- その子女が「血統転換」をなすには、子女自身も1世と同じ基準で祝福結婚を受け、原罪が清算されなければなりません。 ↩︎
- 世界基督教統一神霊協会 家庭教育局 祝福教育部(2011). p.207 編 ↩︎
- 鈴木エイト「統一教会と2世問題」『 だから知ってほしい「宗教2世」問題』(筑摩書房, 2023). 第3章 ↩︎
- 深刻な候補者不足を背景に、一定の年齢以上等の条件で「二世一世祝福」が公式的に認められるようになったとのことです。 ↩︎
- 毎日新聞取材班 『ルポ宗教と子ども 』 (明石書店, 2024) pp.32-37.―― 「貴子の場合」が典型的 ↩︎
- 櫻井正上氏の著書やブログ( https://sakurai.blog/ )等にみられます。 ↩︎
- 上記櫻井氏も、山上徹也氏が「信仰2世」に該当するという認識を個人ブログで示しています。https://sakurai.blog/archives/377#st-toc-h-5 ↩︎