気になっていた本「潜入 旧統一教会」読了しました。
なぜ’背教者’が読むのか
旧統一教会の2世元信者、しかも教団に批判的な立場を取る私が、この本をどうしても読んでみたいと思った理由は、ひとえに家庭連合(旧統一教会)現役信者の方が概ね絶賛しているからです。
教団や現役信者側の主張は、教団の公式会見のほかSNSやシンポジウム等を通しても聞こえてきますが、それが本になって一般の出版社から刊行され、しかも現役信者の方がおおむね絶賛している。
「教団側のプロパガンダ本ではないのか」という見方があるのは知っていたのですが、仮にそうであっても今までにないパターンの書籍ですので「これは読んでみなければ」と思い、手に取った次第です。
‘背教者’という表現について
さて、本記事タイトルの’背教者’という表現について。現在の家庭連合(旧統一教会)では、出身教団に対し積極的に批判的な活動をする元信者のことを、こう定義しているようなのですが、であれば私自身は完全に’背教者’。1
ただ、特に元信者にとっては(ヘイトとまではいかないまでも)心理的に抵抗のある言葉ですし、この表現を用いて信者の結束を高め、声を上げる者の口を封じたいという教団側の意図も感じます。そこで、あえて自ら’背教者’と表現することで、それに対する抗議の意を示すことにしました。
この言葉を目にすること自体が不快な元信者の方もいらっしゃるとは思いますが、このような意図があることをここに申し添えておきます。
「潜入 旧統一教会」読後レビュー
タイトル「潜入」の是非はともかく、事件後の家庭連合(旧統一教会) の姿や信者の率直な思いが丁寧に取材された本だなと感じました。これまでにない、現役信者の主張がまとめられた書籍ということで、著者自身の意図する通り、資料としての価値も大いにある本だと思います。2
ただ案の定、この本に書かれた内容を現役信者の方が「正しい認識・正しい見方」だと思い絶賛する以上、やはりこの教団は宗教法人としては解散されるべきだという思いが一層強くなりました。
なぜそう思ったかは、今後詳しく検証したいと思いますが、まずは「潜入 旧統一教会」の読後感から書き始めたいと思います。
主題は「偏向報道への問題提起」
まず気づいたのは、本書の主題は「マスコミの旧統一教会報道は偏っている」ということです。「旧統一教会も悪いところだけじゃない」という主張がメインかと思っていましたがそちらはサブ的で、著者が最も言いたいのは「マスコミの一方的な報道に異議あり!」というものです。
それもそのはず。著者・窪田順生氏はこれまで、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者と、報道・ジャーナリズムの業界でキャリアを積んでこられ、マスコミの偏向報道と世論操作をテーマとした著作も複数おありの方。そして、今回氏の取材対象となった現役信者の方々も、この間ずっとマスコミの「偏向報道」に対し継続的に異議を唱え続けているのですから、現役信者の方々が好意的に受け止めるのは当然といえます。
ただ、著者の窪田氏は、報道は多少なりとも全て偏っている(=完全な中立はあり得ない)ことは当然で、本書も現役信者側に偏っている以上、被害者の視点は欠けていると明記しています。3。つまり本書の主要テーマは、旧統一教会の批判側・被害者側に偏った報道に対するアンチテーゼ。これは現役信者の方々にとって、絶賛に値する内容であるはずです。
本当に「ありのまま」
また、書かれた内容に関しては、この教団で約25年を過ごした私の感覚としても、本当に「ありのまま」なのだろうなと感じるものばかりでした。
第1・2章に綴られた韓国の教団聖地(’清平’)の描写は、私が先祖解怨や40日修練会のため滞在していた頃の様子をありありと思い出させるものでした。また、以前は売店とカフェだけだった低層の建物がデパートや記念館(天寶苑)が入る高層の建物になっている等、大きく’発展’した様子も描かれており、感慨深いものもあります。
随所で登場する現役信者の方のコメントや教義に対する解釈4なども、これまさに食口5的思考・感覚そのもの。こうした、元「内輪」的な内容が本になって世に出てしまったことは、なんかちょっとこそばゆい感じもしています。
第7章に登場する田中会長インタビュー。私は信者時代、現会長・田中富弘氏の講義を拝聴したことがあるのですが、本書に綴られた軽妙で飄々とした語り口は、著者の窪田氏が「話の面白い普通のおじさん」6と評した、そのままだと思うのです。
「マインドコントロール本」ではない
これはあくまで元信者である私の感覚ではありますが「著者がマインドコントロールされて書かれた本」などという印象は受けませんでした。
「このライターは旧統一教会とズブズブだ!マインドコントロールされているので、この本で語られていることも、あちらの一方的な主張をただ垂れ流しているだけだ!」
ただ、私としてはそんな見方をしていただくことはありがたい。できることならそういう批判がもっと盛り上がっていただきたいと思う。というのも実はこれこそが、本書で問題提起したいもうひとつのテーマだからだ。
本書 p.304
こちらに関しては、著者の意図は外れてしまったように私は思います。教団の問題点について、ある程度は突っ込んで聞いている部分もあり「一方的な垂れ流し」とまでは言えないのかな、と。
丁寧な取材を通して書かれた、現役信者の視点からのルポルタージュだと思います。
次回作以降に期待したいこと
とはいえ、核心的な部分には触れられていないなと思ったのも事実。もし第2弾、第3弾があれば、以下は是非取材していただきたい内容です。
世界本部系人士へのインタビュー
田中富弘・日本教団会長へのインタビューを敢行されたことは大変意義深いですが、世界本部系の人士へのインタビューも欲しかったなと思います。
周知のとおり統一教会問題の本質は日本教団というより世界本部にあります。日本教団会長職の上位には、世界本部から派遣された「総会長(もしくは神日本大陸会長)」が1990年代から君臨し、献金の指示を出し続けてきました。7これはマスコミでも報じられていますし、日本の世論が教団に批判的になった原因の1つです。
それも「偏向報道」と捉えているのか。また教団の信者家族からあのような事件を起こした犯人を出してしまったことについて、どう考えているのか。この辺りは是非とも世界本部系の人士の見解を聞いてみたい。
今のところ、彼らがマスコミのインタビューに応じた様子はありません。「偏向」を是正するという意味でも、これはぜひ実現してほしいところです。
教団儀式への体験参加
また、著者の窪田氏が’潜入’した清平修練苑では、日本で散々報道された「先祖解怨」とほぼ同じスタイルで「霊分立役事」という儀式が、日常的に行われています。
マスコミやジャーナリストが「霊感商法の総本山」と批判している修練所なので、そこかしこで怪しい儀式が行われていたり、「先祖が地獄で苦しんでいる」など恐怖を煽ったりしていないか痕跡を探してみたが、あいにくそのような痕跡は見つけられなかった。
本書 p.89
この儀式は非常に大きな音を立てます。もし窪田氏が訪問した時間に行われていれば、施設内の「親和教育館」あたりから、大太鼓の「ドン・ドン・ドン」という音やシンセサイザーの伴奏、「通声祈祷」の絶叫などが確実に聞こえるはず。
この儀式は現役時代には私も多数参加し、その宗教的な意味も理解しているつもりです。8せっかく’潜入’されたのだから、ぜひこの儀式は体験してみてほしかったなぁ…。教団側も手配してあげたらよかったなあと思います。
その上で「怪しげ」と感じたのか、はたまた宗教的体験として良かったのか等、非信者の方の率直な感想もまた、重要なレポートになるのではないかと思います。
本書のもつ意味は結構大きい
本書の読後レビューとしては、以上です。
しかし、冒頭で述べたように、この本に記録された家庭連合(旧統一教会)のありのままの姿と現役信者の見解を読み、ますますこの団体は宗教法人として適切とはいえないだろうと思えるものでした。
なぜそう考えるのかは、順次、このブログに書き綴っていこうと考えていますが、教団に批判的な意見や元信者・被害者の証言を補完したり、裏付ける可能性のあるものも存在するように思えるのです。
統一教会問題へのこだわり
わざわざこんなことをブログに書くなんて、それこそ「’背教者’は黙ってろ」と言われるかも知れないのですが、なぜ離教した立場で執拗に旧統一教会にこだわるのか。その理由を、私は自身のSNSプロフィールにこう記しています。
この教団に長く身を置いてしまったことを悔いています。統一教会とは何なのか。なぜ信じたのか。そして統一教会はこの国にどんな影響を与えたのか。問い続けたいと思います。
プロフィール: インセム(인샘)田村一朗(仮名)(@InsaengMwoisseo)
旧統一教会問題は、私たち当事者だけのものではありません。
旧統一教会の信者家族が、歴代最長期間首相を務め、日本社会に大きな影響を与えた安部晋三氏の命を奪ってしまったのです。犯行動機に旧統一教会と関係があることは、被告・山上徹也さん自身が既に言及しています。
あの事件はあまりにもセンセーショナルでした。当然ながら直後の報道は過熱し、ゴシップ的な報道がなされた面も確かにあったと思います。本書「潜入 旧統一教会」で念頭に置いている「偏向報道」は、主に事件発生当初のものが念頭に置かれているでしょう。
ただ、それらの報道は「偏向」していたとしても「虚偽」ではないはず。見せ方・報じ方に問題があったとしても、報道されていることは概ね「事実」であるはずなのです。9
冷静に、深く考えたい
‘背教者’である私自身も、自身の出身教団がゴシップ的に消費され、やがて時がたつと忘れ去られてしまうような状況を、決して良しとしているわけではありません。ですから報道が沈静化していく中で、この問題を冷静に、深く考えていくことが必要だと思っています。
既に、問題と冷静に向き合い、宗教・政治そして社会について考えようとする動きもあるし、関連する書籍も複数刊行されています。堅苦しく難解で、理解するのに骨が折れる面もありますが、分かり易く単純化された、大衆受けするコンテンツばかりがもてはやされるようでは、それこそ「偏向報道」を助長することになってしまう。
ですので私は、教団に批判的な姿勢を取る2世元信者(’背教者’)という立場を明らかにしつつ、あらゆる根拠をもって、この教団の本質や問題点に迫っていきたいと思っている者です。
そのための資料として、既に刊行された書籍等と併せ、本書「潜入 旧統一教会」を活用させていただきたい。これは現役信者はともかく、著者・窪田順生氏の執筆意図には沿うものであろうと私は信じています。10
- 【統一教会プロパガンダ】元信者と背教者|セイスケくん (note.com) ↩︎
- 「潜入 旧統一教会」著者 窪田順生氏インタビュー(3)巨大メディアの「正義」危ない | 世界日報DIGITAL (worldtimes.co.jp) ↩︎
- 本書 p.305 ↩︎
- 本書 p.48-49等 ↩︎
- 食口(식구)…家庭連合(旧統一教会)信者のこと。「シック」と読みます ↩︎
- 本書 p.278 ↩︎
- 統一教会との闘い 第2章 ↩︎
- 朝鮮半島シャーマニズムの影響を受けた儀式スタイルのようです。離脱後に知りました。 ↩︎
- 報道内容にされた対して教団が訴訟を提起している事例もいくつかあります ↩︎
- 本書 p.36 「社会全体で批判をするにしても、当事者たちが今何を思い、何を考えて信仰や政治活動を続けているのかくらい耳を傾ける寛容さがあってもいいと思った」 ↩︎