今回は、教団聖地への’潜入’部分を中心に綴っていきたいと思います。本書「潜入 旧統一教会」の「はじめに」~第2章の内容となります。
著者は、教団の世界本部より特別に許可を得て「取材NG最深部」「不可侵領域の施設」に’潜入’し、そこで見聞きしたことや関係者へのインタビューを踏まえ「日本の報道のイメージとはかなり違う」と感じたそうです。
白亜の宮殿
「天正宮博物館」(천정궁박물관)。日本の報道では韓鶴子総裁の居所として知られますが、実は同時に「博物館」でもあるのです。内部の様子は本書で詳しくレポートされていますが、教祖夫妻の人生を辿る展示等があり、宗教的体験型テーマパークのようであり、信者にとっては巡礼コースのようになっている、とのこと。
私自身は信者時代、2006年に行われた竣工式(天正宮入宮戴冠式, 天正宮博物館開館式)1や、教祖直々の説諭を聞く早朝集会(天正宮訓読会)に参加した際、何度か訪ねたことがありますが、あの内部をじっくり見た記憶がありません。ただ、あのドームを中から見上げ、息を呑むような光景に圧倒されたことだけは覚えています。
天正宮博物館について
この天正宮博物館、実は韓国の高速道路上からも見える位置にあり、ドラレコ映像がYoutubeにアップされています。2一瞬ですが画面の右上、山の中腹に白亜の大宮殿がそびえ立っているのが確認できます。
バスの車窓からだと、これよりはっきり見えたと思うのですが、実際見ると結構びっくりするような存在感だったと思います。
また、外形がホワイトハウスと似ているという指摘もあります。こちらのブログで並べた写真が掲載されていますが、たしかに…そっくりですよね。
24.1.19更新
上記より新しい映像がありました。現在はもう1つの宮殿「天苑宮」が間近に見えるようです。
誰でも「入れない」博物館
本書が、日本メディアが入れなかった旧統一教会の聖地、特に天正宮博物館を取材できたというのは、一定の評価を受ける面もあるのでしょう。私にその辺はよく分からないのですが、それよりも1つ、大きな疑問を感じたことがあります。
そもそも宗教の聖地や博物館に入れないのは、どうして……?
「至聖所」とはいえ…
信者はもちろん、それ以外の人にも広く開放して見学や拝観できるようになっているのが、一般的な神社やお寺、礼拝堂といった宗教施設ではないでしょうか。新宗教の本山であっても、一般人が気軽に訪ね、見学や拝観のできる教団はいくつもあります。ましてや「博物館」でもあるのです。一般公開しない博物館とは、よく考えたら不自然なものです。
いやいや、自分が知らないだけで実は一般開放しているのか…と思いきや、韓国のニュースサイトに「誰でも入れない博物館」ということで、天正宮博物館の運営実態を問題視する記事が掲載されているのを見つけてしまいました。3
聖地であれ博物館であれ、天正宮は’人類のメシヤ’故・文鮮明氏の墓所であり、また’独生女’韓鶴子氏の居所でもある「至聖所」4。一般人が気安く近付ける場所ではないんだ、というのが運営方針なのでしょうか。
私は信者時代から、天正宮博物館とはそういうものだと思い込んでいましたが、よくよく考えると、やはりこれは何か違和感があります。
信者もなかなか入れない「聖地」
それどころか、ここは信者ですら滅多に参拝できる場所ではありません。
清平を訪れる信者は、基本的には’下界’の天宙清平修練苑に滞在し、先祖解怨や霊分立といった儀式に参加したり、祈祷所や’5本の木’で瞑想・祈祷をするといった修練の時間を過ごします。5その滞在日程のどこかで、オプショナルツアー的な感じで天正宮への参拝ツアーが組まれ、希望者は手続を経て参加するシステムになっていたように私は記憶しています。
また韓国の場合、教祖による早朝の説諭(天正宮訓読会)に参加する機会が教区単位で巡ってきて、それに参加することで天正宮に入場できるようになっていたと思います。
以上は私が信者時代の記憶で正確なものではないかも知れませんが、とにかく天正宮が一般的な寺社や礼拝堂のように開かれた宗教施設とは程遠く、しかも信者であっても滅多に入れないほどにガードの堅い場であることは間違いありません。先に言及した韓国ニュース記事が2022年8月のものなので現在でも変わりはなさそうですし、また私が信者時代の頃もそうだったことから、安部元首相銃撃事件が影響しているわけでもないと思います。
「功労者」の名が刻まれた石板
2000年代前半頃、天正宮建設関連の名目で、日本信者1家庭あたり数十~百万円台程度の献金が割り当てられていました。
この時、目標額を達成し献金を完納した暁には、功労者として天正宮内に名前を刻んでもらえるという’恩恵’が発表され、特に日本信者は真の親に孝行した証を残すべく、必死の思いで献金を捧げたはずです。
こちらはアメリカにある別の教団施設の例ですが、天正宮もこのような形で功労者の名前が掲示されています。たしか天正宮は石板に刻まれていたと記憶していますが、はっきり覚えていません。
目標金額を完納し’勝利’した信者にとって、天正宮を訪れるのは「石板に刻まれた自分の名前を見に行く」という目的も、実は大きいのです。
こうした手法の是非は一旦置くとして、それだけの高額献金を要求しておきながら、功労者ですら辿り着くのが困難で、しかも「誰でも入れない博物館」と疑問視される「白亜の宮殿」。そういう一面も、この天正宮博物館には存在します。
見えてくる教団の性格
信者の見解
ところで、多額の献金を集めて豪華絢爛な宮殿を建てることに対し、当の信者がどう捉えているのか。本書には、案内役の現地職員・日本人信者の山本さん(仮名・60代)にインタビューした内容が掲載されています。
山本さんによれば、文氏や韓氏が、天正宮博物館や天苑宮などの豪華な宮殿を建てるのは、メシヤとして霊界に行った時に、あらゆる人たちが、神に許されるためだという。
霊界には亡くなった人がすべて行く。その中には、王様のように贅の限りを尽くしていた人もいる。このような人はメシヤよりもいい暮らしをしているということで、神から許されない。そこで、メシヤである文氏がこのような人たちよりもいい暮らしをすることで、許されるようにしているということらしい。
(※山本さんコメント)「お父様は牢屋の中でトイレの横という過酷な生活もしたことがあります。貧しい人でも経験したことがないような最低の生活から、王宮のような最高の生活まですべて経験しているということで、あらゆる人がメシヤはやっぱりすごい、と心を開くことができる。だから、天苑宮のような豪華な施設をつくっているのは、何かを誇示するわけではなく、全ての人の愛と許しを乞うということのためだと私は思います」
本書 pp.44-45 ※および下線はは筆者注
ええ。これは私の信者時代の認識とピタリと一致します。私がどうしてそう思っていたかは忘れましたが、おそらく礼拝の説教や講義などで聞いた見方を、自分の考えとして受け入れていたのでしょう。
(かつては私自身もそう思っていたのに)「メシヤはやっぱりすごい」と心を開かせるために贅の限りを尽くすって、結局は富を誇示していることにもなるよなぁ????とは思うものの、そういう信心や考えを持つこと自体は当然ながら自由。
公益性を考えているのか
重要なことは、こうした考え方が旧統一教会の文化として当たり前のように根付いていて、それをいいことに教祖家庭や一部幹部が教団の富を専有している可能性があること。信者の家庭に問題が起こり、被害を訴える元信者や2世が多数存在することは、こうした教団の文化にも原因があるのかも知れません。
「絶対信仰・絶対愛・絶対服従」を日夜唱えながら6ここまで信者が熱烈に帰依し、尽くしているのです。教団は、その結晶である天正宮博物館を一部で私物化せず、信者が心行くまで拝観し宗教的な価値を感じることができるよう運営をするのが、宗教団体として適切な態度ではないでしょうか。また博物館としても、その運営実態は公益性を意識したものとは到底思えません。
天正宮博物館の例一つを取ってみても、この教団が宗教団体として公益性について非常に無頓着で、信徒をないがしろにしている実態を、残念ながら私は感じてしまうのです。そして、本書「潜入 旧統一教会」に綴られた「ありのままの姿」「現役信者の声」は、この教団の被害者の証言や批判的な立場の主張を、意図せず裏付けるものにもなり得るだろうと私は考えています。
「普通」とは?
著者は天正宮博物館を訪問し、「反日カルト」と散々報道される割に日本人を貶めたり日本人への恨みが垣間見えるような痕跡はみられず「思いのほか普通だった」という感想を述べています。7
目の前に映った光景と日本の報道とのギャップだけに注目すれば、確かにあそこは意外と「普通」の場所なのかも知れません。
しかし、もっと多角的な視点からその態度を見据えた時、果たしてそこは宗教教団として「普通」の場といえるのでしょうか?
- HJ天宙天寶修錬苑 (hjcbt.org) ↩︎
- https://www.youtube.com/watch?v=qlwLdBS5RiE&t=141s ↩︎
- [단독] 아무나 못 가는 박물관 ?… 통일교 ‘천정궁박물관’ 16년째 미등록 – 노컷뉴스 (nocutnews.co.kr),
2022.8.4 ※運営の違法性を指摘する内容ではありません ↩︎ - 本書 pp.61-62; 天正宮は「至聖所」、現在建設中の天苑宮は「聖所」というのが韓鶴子総裁の見解 ↩︎
- 現在は様々な娯楽施設があるので、宗教的な儀式以外にもリゾートのような多様な過ごし方が出来る環境になりつつあるでしょう(本書第2章) SEISYUN TV「ウェルカムKOREA〜HJ天苑特集〜」 ↩︎
- 家庭盟誓 第8節 ↩︎
- 本書 pp.57-58 ↩︎