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統一教会・宗教2世の叫び――韓国『PD手帳』が描く“ホーリー・マザー・ハン”の実像

2025年10月21日公開の韓国MBCドキュメンタリー番組『PD手帳』において、統一教会(世界平和統一家庭連合)の問題が取り上げられました。
タイトルは「神になった母“ホーリー・マザー・ハン”」。
現在、総裁以下核心幹部が請託・横領などの容疑で起訴される中、韓国社会でも統一教会に関心が集まっています。今回の番組はそれらの疑惑に加え、苦しみ続けている被害者、特に「宗教2世」に重点を置いた構成となっています。
番組全編はYouTubeの字幕生成で日本語参照も可能ですが、取り急ぎ2世に関わる主要な部分のみ抜粋・翻訳し、ここでお伝えしたいと思います。
統一教会2世の現状――日韓共通する苦しみの構造
統一教会の信者家庭に被害が生じているのは、日本だけなく韓国も同じです。特に教団の合同結婚式(祝福)で結ばれた韓日カップルの信者家庭における2世の実態が、当事者の証言によってその一端が明らかにされつつあります。
教会活動にのめり込む親によって苦しむ2世。それでも親への思いや愛ゆえに葛藤し、搾取をはたらく教団の所業に憤る実態は、日本の「宗教2世問題」と全く同じであると言えます。
中学2年生が綴った手紙――「これは本当に家族なの?」
『PD手帳』が統一教会の取材を始めた直後、統一教会2世の中学2年生女子から次のような手紙が届いたといいます。
私の両親は統一教会の信者で「合同結婚式」で結婚しました。
お母さんは日本人で、お父さんは韓国人です。私の家には、あたたかさがありません。
10:55~
家族なのに、みんな別々にごはんを食べています。
「私は一生、誰にも愛されないのかな」と思うことがあります。
気づくと、マイナスなことばかり考えてしまいます。
これが本当に「家族」なんでしょうか。
統一教会は、こういう家庭を「正しい家庭」と言うのでしょうか。こんなにもたくさんの人を傷つけておいて、
それでも「正しい宗教」だなんて言えるのでしょうか。
たくさん、苦しんでいる子たちがいます。
これは、れっきとした犯罪だと思います。14:52~
被害を受けた10代の子たちがたくさんいます。
どうか、そのことを報じてください。
この他、統一教会2世から『PD手帳』に多数の情報提供があったそうです。
その中には、夜10時から開かれる、あの「徹夜祈祷会」の映像もありました。番組ではその一部を放送しています。
絶叫する大人たちの横で遊んだり、床に横たわり眠り込んでいる小さな子どもたちの姿が克明に映し出されています。
該当部分を頭出ししています。どうぞご覧ください。
※音量注意
※フラッシュバック注意(特に当事者の方)
3世元信者が語る「祝福結婚」の実態
ノルウェー在住の教師、ペ・ジュンピョさん。「ベッセム(배쌤)」という名前で統一教会の内部告発者トークルームを運営しています。おばあさんが統一教会の熱心な信者で、彼自身も約25年間、信者として教会に通っていました。
彼は、統一教会の合同結婚式(祝福)を受けた経験を語ります。
(教祖が)口では信徒たちに「君たちの写真を見ながら7代の先祖を見て霊的に結んでいる」「君たち2人だけの祝福ではなく、君たちの先祖まで全部見てマッチングしてあげている」 「それで君たちの家庭がうまくいくように···」等と言うんです。口では。
13:25~
私も、それに騙されてしまいました。
私は日本人の女性とマッチングされましたが、彼女は強制的に祝福に参加させられた人でした。
彼女の父親が教会の狂信者で、本人は「祝福は受けたくない」と強く願ったのですが、嫌がる娘を強制的に合同結婚式に参加させたのです。
相手の意思を尊重して婚約を破棄した彼はその後、自身が信仰する統一教会の実態について考えるようになったといいます。
終わらない献金――母を追い詰めた“解怨”と“孝情”
番組では、取材に応じた2世のインタビューが比較的長時間収録されています。
韓日カップル2世のハン・アヒョンさん(仮名)は、取材を受けるにあたり自身の身元が特定されてしまうことを、とても心配していました。
――顔は絶対に映らないようにします。
大丈夫ですよね?もし映ったら私、修練会に連れて行かれて……――どんな思いで番組に情報提供をしてくださいましたか?
もともと教会は、形だけでもきちんとしているように見えていました。母もずっと(統一教会を)信じていたんです。
でも今は(韓鶴子総裁が)逮捕されて、母もとても動揺して大変になっています。
きっと他にも混乱している人がたくさんいるんじゃないかなと思います。私と似たような立場の人もいるかもしれないので、そういう人たちがこれ以上教会の言葉に振り回されないでほしいと思いました。
――合同結婚式では、日本人女性と韓国人男性の結婚が多いですね。(両親は)毎日けんかばかりでした。本当にちょっとした事でけんかになって。物を壊したり。でも「それはお母さんが責任を負うべき問題だ」って教会で言われるんです。
――教会で、ですか?
はい。
――どうしてお母さんの責任になるんですか?「お母さん側の先祖がお父さん側の先祖に悪いことをした。だからお父さん側の先祖に恨みがたくさんある。それを晴らすために、怨讐同士で結婚させた」という理由からです。
15:14~
だから(母は)「私が(先祖の恨みを)全部清算しないと息子まで苦しむことになる」と……。
(教会では)「真の家庭を大切に」「人類みな一家族」などと言います。でも家ではお母さんとお父さんがしょっちゅう喧嘩していて、家も本当に貧しくて……·
もう1人、取材に応じた統一教会2世のチェ・ジミンさん(仮名)。彼女の両親も韓日家庭です。両親の間には宗教的な問題で葛藤が多いと訴えます。
母は(統一教会の)信仰に深く洗脳されて韓国に来たんです。でも父はただ結婚をしたくて教会に入ったケースで、私が小さい頃から両親はよくけんかをしていました。教会に通うのか、通わないのか、で……。
――お父さんは自分が統一教会に入ったのに、どうして……
「(お母さんの手前)自分は嫌でも我慢して教会に通うくらいするべきじゃないのか」とか「少なくとも私の前ではけんかしないでほしい」と思っていました。
終わりなき献金――母を追い詰めた“解怨”と“孝情”
韓国の2世たちも、教団による「献金」による苦しみを訴えます。
前出のハン・アヒョンさんの証言です。母親は生活に余裕がない中でも統一教会に尽くし、それによってアヒョンさん自身にも多くの困難が降りかかります。
母は下着も買えなかったんです。
――下着も買えないほど?
はい。貧しさのどん底でした。生活保護受給者の食料配給ももらったし……。
21:30~
そんな厳しい生活状況にもかかわらず、アヒョンさんのお母さんは、先祖の恨みを晴らすという統一教会の「先祖解怨祝福式」に何度も参加し、多額のお金を支払ったそうです。
――献金のせいで大変なこともありますか?
27:04~
ええ。(教会から)「公文」が出されます。それで1家庭あたり13万ウォン、独身者は7万ウォン、成人独身はいくら……そんな感じで献金をするよう促されます。
みんな献金するから……自分だけやらないわけにもいかないから、結局、献金するしかなくなるんです。
教団が韓鶴子総裁の体制になると、統一教会では新しい「商品」も次々と登場しました。アヒョンさんは、先祖の霊を慰めるという「孝情苑」を400万ウォンで購入したといいます。
「孝情苑」を買ってお祈りする。それが最後だと思っていたんです。もうこれで終わりなんだと思って買ったんですよ。400万ウォンもするものを……。
でも、終わりじゃなかったんです。
今度は、「身体に霊が憑いている」って言うんです。
背骨のどの部分に何人、腕に何人、足に何人、頭に何人……そんなふうに言われて。
それを「取らなきゃいけない」って……。――無料なんですか?
いいえ。1人につき10万ウォン。解怨が10万、祝福が10万。
霊を取って終わりじゃなくて「結婚までさせなきゃいけない」って。――それを聞いてどう思いましたか?
31:27
「終わりがない」と聞いて、絶望しました。「この人たちはもう、本当にお金のことしか考えてないんだ」って思いました。
アヒョンさんは、お母さんの強い勧めに逆らえず、40日修練会にも参加しました。
「教会をやめたって、本当に幸せになれるのかな……そう考えると、怖かった。」
もうちょっと、お金取るのを減らしてほしい。なにも「取るな」と言ってるんじゃないんです。ちょっとくらいむしり取られるのはもう仕方ないから、せめて母が亡くなるまで、教会がちゃんとしていていてほしいんです。うちの教会が本物で、世の中が迫害してくるのであってほしい。統一教会は本当に正しくて、真の父母様が本当のメシアであってほしいんです。
32:14
「それは違う」って、何度も自分に言い聞かせても、やっぱりどこかで、そんな風に思ってしまう。教会や真の父母様が全部正しいんだと信じられたらいいのに……と、本当に思うんです。
だって、そうじゃなかったら私の周りの人たち、母や友達、みんなの人生が全部、否定されてしまうんですから。
専門家の分析――沈黙を強いられる2世たちの孤立
番組では、統一教会問題に詳しい卓志一・釜山長神大教授が、こうした2世たちの苦しみについてコメントしています。
一番かわいそうなのは、子どもたちです。
18:25~
(統一教会をめぐっては)政治的事件や経済的不正、いろいろな問題があります。でも、結局は被害者の家庭に生まれた、悩みを抱えるたくさんの2世たち――学校では統一教会の信者だと明かせずに過ごしている、多くの統一教会2世たちがいるんです。そして、そうした困難を表に出せない彼らは、オンライン上で互いに慰め合い、相談し合う、といったことも起きているんです。
また、番組アナウンサーは、次のように語り掛けます。
もちろん、合同結婚式を経て家庭を築き、平凡で幸せに暮らしている家庭も多いでしょう。しかし『PD手帳』に情報提供をしてくれた統一教会2世たちは、「家庭を大切にする」という信仰の名のもと、かえって家庭が揺らぐという矛盾に苦しんでいました。
33:12
何よりも、終わりのない献金の重圧による経済的困難が大きいと語っていました。
「真の母」と呼ばれる韓鶴子総裁や統一教会の指導部は、そうした信者たちの困難を、本当に知らなかったのでしょうか?
韓鶴子総裁と教団幹部の不正疑惑を受けて
現在、韓国統一教会で問題になっている数々の容疑を受け、統一教会2世が何を思っているかも報じられています。
特に、総裁と一部幹部のラスベガス賭博問題。ハン・アヒョンさんは、この件についての憤りを率直に吐露しています。
なお、韓鶴子総裁をはじめとする統一教会の指導部12人が4年間でカジノに使ったお金は609億ウォンを超えるといわれています。
まさか600億もギャンブルに使っているとは思わなかったです。それだけは最後まで認めないでいてほしかったのに、正直に言っちゃったって……もう、笑っちゃいますよね。
純粋に信じていた信者たちはどうなるんですか?「息抜きで献金をカジノに使った」なんて言われちゃたら……ほんとに……ただのおばあちゃん……どこが「ホーリー(Holy)」……。
600億のギャンブル、そのお金はどこから出たんですか?献金ですよ?私たちの献金ですよ……
自らを「独生女」「真の母」と称した韓鶴子総裁は、信徒たちの献金を横領した容疑等で法の裁きを受けることになりました。
3世元信者のペ・ジュンピョさんのコメントです。
母が小さな屋台をやりながら捧げてきたお金でもあるんです。そのお金は……。
母は統一教会で献身活動を続け、ずっとお金を捧げ続けて、しまいには経済的に破綻しました。
それで60歳にもなって、小さな宿舎で暮らすことになったんです。――そこでお一人で暮らすことになったんですか?
はい、一人で。本当に、あの人たちに0.1%でも良心があったら、あんなお金の使い方はできません。
43:47~
あの人たちは分かっているんです。どれだけ多くの家庭が崩壊しているのかを。
キリスト教では収入の10分の1を捧げよと言いますが、統一教会では10の3を捧げよと言うんです。自分の給料の30%を捧げなさい、ということです。
私が稼いだお金も、借金をして捧げたお金も、本当に天の摂理のために使われることを願って捧げたお金なのに……どうしてあんな使い方ができるのか。
あの人たちに0.1%でも良心があったなら、こんなことにはならなかったはずです。
おわりに――継続的な調査報道を!
日韓両国で、統一教会の不正や不法行為の疑惑が同時に表面化しています。こうした情報は少しでも両国双方向で伝達されることが望ましいと考え、拙いながら僭越ながら翻訳を記事化させていただきました。
このような調査報道が更に活発化することを願いますし、私も協力していきたいと思っています。