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「一人も取り残さない救済」を目指して――パブリックコメント提出の呼びかけ

文化庁が世界平和統一家庭連合(以下「旧統一教会」)が解散になった場合1の清算人の指針(ガイドライン)案を公表し、パブリックコメント(意見募集)を行っています。
なぜ今回のパブコメが重要なのか
旧統一教会が解散したあと、被害を訴える先はもはや「教団」ではありません。裁判所によって選ばれる「清算人」という立場の人が、教団のお金や財産を整理し、被害者への返金を進める役割を担うことになります。
清算人が実際に動くときの手がかりとなるのが、今回文化庁が出した「清算人ガイドライン」です。法律の条文だけでは判断が難しい場面も多く、ガイドラインは「被害者救済を最優先にすべき」という方向性を示す参考になります。ただし、あくまで指針は指針であり、最終的な判断は清算人が行います。過度な期待はせず、参考として活用されるものという理解をしておく必要があります。
パブリックコメントは、被害者やその家族の声を直接届けられる数少ない機会です。今まで声を上げられなかった人たちの思いや経験を反映させることで、清算人が「被害者の声を踏まえて救済を行う後押し」を得ることにつながります。
被害者の視点からみる清算手続の流れ
- 調査
清算人は、教団の財産や借金などの状況をまずしっかり調べます。ここで被害者が「返金されるべき被害を受けたかもしれない」と考えるお金も確認の対象になります。 - 現務の結了
解散前に始まった仕事や契約がまだ残っている場合、清算人が最後まで片付けます。 - 債権の取立て・債務の弁済
被害者として被害者が請求できる範囲のお金(債権)を取り立て、教団が借りているお金は返済させます。 - 残余財産の引渡し
すべての債権者(被害者を含む)への支払いが終わった後、残った財産が帰属権利者2に渡されます。
パブリックコメントは、単なる意見提出ではなく、被害者自身が「自分の権利を守るための声」を届けるチャンスです。どんな小さな経験や思いでも、清算人にとっては貴重な手がかりになります。過度な期待はせず、あくまで救済の後押しになる一歩として、ぜひ一人ひとりの声を届けてください。
指針案には何が書かれているのか?
文化庁が3回の検討会をもとに導き出した「指針案」には、以下のような内容が書かれています。これを把握した上で「良いポイント」や「足りないところ」などの意見を送るのが「パブリックコメント」になります。
指針案はどこで読めるのか?
文化庁のホームページにてPDF形式で公開されています。
指定宗教法人の清算に係る指針案
指針案の本文が資料1 (p.2~9)、概要が資料2(p.10)に掲載されています。
指針案の要約(AI使用)
原文は用語や行政文書独特の言い回し等で読むのが難解な部分があります。そこで便宜上AIを使用し簡単な文章に要約したものを掲載いたします。
- 清算の一番大事な目的は「被害にあった人たちにできるだけお金を返すこと」です。また、財産的被害のみならず精神的被害についても配慮が求められます。
- 清算人は弁護士や会計士などとチームを組み、調査をします。財産を隠そうとしたり、邪魔があった場合は、警察や裁判所とも協力できます。
- 教会の建物や土地は売ってお金に変えることもあります。ただし、礼拝など信者の宗教活動に最低限使えるようにする場合もあります(ただし被害者への返金に支障が出ない範囲で)。
- 被害にあった人からの「返してほしい」という申込みを積極的に受けつけます。そのために説明会や相談窓口を作り、わかりやすく情報を出します。
- お金を返すときは、被害の種類ごとに基準を作って、公平に分けます。弁護士に相談するための費用も対象にできます。
- すぐに全員の被害がわかるとは限らないので、長い時間をかけて申込みを受けつけることも考えています。
- 最後に余ったお金(残余財産)は、被害者への返金が終わるまで教会に戻さず保留します。
ここに表現しきれていない内容も多数ありますので、できるだけ文化庁による原文もしくは概要を直接お読みいただきたいと思います。
指針案の評価
ここで、筆者(田村一朗)個人の観点による評価・感想を書いてみたいと思います。
A.被害救済が清算の中核
まず「一人の被害者も取り残すことのないよう(中略)でき得る限りの努力をもって被害の回復を図ることを基本的な立場とすべきである」3と明記されているのは安心感があります。教団に代わって対応する存在である清算人が被害回復を最優先に考える存在であるということは、被害者にとって希望の持てるポイントだと思います。
更に「でき得る限りの努力」と書かれていることもポイントです。「訴えさえすれば何でもかんでもお金をもらえる」といった誤解を防ぎ、適切な被害認定のもと被害救済が進むべきと示されているのは、清算の信頼性を高めるものといえます。
B.実務上の困難にも言及されている
事務処理が膨大になることや、元役員(教団関係者)の妨害が想定されることなど、現実的な困難に目を向けて言及されている点は素晴らしいと思います。観念的な理念だけでなく、実務上の運営を真剣に考えている姿勢が伝わり、信頼感が増します。
C.被害申告に工夫がなされている
①被害申告の意志の確認 ②相談窓口の設置 ③説明会開催 ④被害者の求めに応じた献金等の記録の開示といった例を挙げ4、被害者が安心して申し出やすいよう配慮がなされていることは大変重要です。地裁が認定した被害規模からすると、未だ泣き寝入りを強いられている被害者も少なくないことが見込まれます。そうした方々にも希望が見えることは大変重要です。
更に信教の自由を尊重しつつも、被害者救済を優先させる工夫が見られる5ことは、バランスの取れた対応だと思います。
改善が必要なところ
D.古い被害の救済を制限しない工夫を
ここは極めて重要なポイントといえます。指針検討委員のお一人である釡井英法弁護士も指摘されているところですが6、「時効や徐訴期間に引っかかるものは一切救済できませんよ」といったような対応にならないよう、指針案に何らかの記載がほしいところです。
特に旧統一教会の経済的な被害は教団の「コンプライアンス宣言」(2009年)以前に集中しており、この部分が救済されるかされないかで被害救済の実効性は大きく異なってくると私は考えます。
また、旧統一教会は甚大な被害を出しながら何故か取締りを受けず存続してしまった現実があります。7その点を考慮すると、時効や徐訴期間を理由に古い被害の救済が一律で閉ざされてしまうのは理に適いません。時効や徐訴期間にとらわれず、柔軟な被害救済がなされるよう指針案に盛り込んでいただきたいと願います。
E.家族・2世被害等も幅広く救済認定の対象に含めて
直接的な献金や契約の被害に限らず、信者の家族やいわゆる「宗教2世」などにも、直接・間接的に深刻な被害を受けた方も数多く存在します。そういった方々の救済も適切になされるような配慮が求められる旨、指針案に含めていただきたいと思います。
また、被害の類型も経済・金銭的なものだけではなく、精神的被害や「祝福」(合同結婚式)等による被害の実態に応じ、幅広く救済対象とすることが求められます。指針案に書いてあることしか救済されないと解釈されないような表記の工夫をお願いします。8
F.被害者の個人情報保護・教団側への情報流出に最大限の配慮を
被害申告に工夫が成されている点は評価できますが(上記C)、教団関係者に被害者の氏名や申告の内容等が伝わってしまわないよう、格別の配慮を願います。清算人や関係当局のみに限定され、外部に漏れないようにする配慮を徹底するよう明記していただきたいと思います。
これに関連し、被害者説明会等を開催する場合もオンライン形式や匿名での参加など、個人のプライバシーに最大限配慮した形で開催してください。
指針案の評価まとめ(田村一朗の視点)
評価できる点
- 被害救済が清算の中心と明記され、「一人も取り残さない」とされたことは大きな安心材料。
- 「でき得る限りの努力」との表現で、過度な期待や誤解を防ぎつつ救済の方向性を示している。
- 実務上の困難(膨大な事務処理や元役員の妨害)にも触れ、現実的な姿勢を示している。
- 被害申告の工夫(窓口設置・説明会・献金記録開示など)が盛り込まれ、泣き寝入り防止につながる。
- 信教の自由に配慮しながらも、救済を優先する姿勢が示されている。
改善を求めたい点
- 古い被害の救済を制限しないよう、時効や除斥期間にとらわれない柔軟な対応を明記してほしい。
- 家族や宗教2世の被害も含め、精神的被害や「祝福」に伴う被害も救済対象にしてほしい。
- 被害者の個人情報保護を徹底し、教団側に情報が渡らないようにすること。
- 説明会はオンライン・匿名参加など、プライバシーを守れる形で実施してほしい。
まとめ
今回のパブリックコメントは、旧統一教会の被害者救済にとって極めて重要な機会です。長く救済を諦めてきた方々にも、新しい希望が見えるものになるでしょう。
同時に、この指針は前例のない難事業に挑む清算人を導き、時に精神的な支えとして背中を押す役割も果たすことでしょう。そのためには、社会全体である程度の同意を得て共有できる方向性が欠かせません。
ここに掲載したのは、あくまで筆者(田村一朗)の個人的な案ですが、これを参考に一人でも多くの方が声を寄せることで、被害者救済がより実効性のあるものへと近づいていくと私は思います。
同じ内容でも、それぞれの思いや体験を少し添えるだけで、意見としての価値はぐっと高まります。ぜひ、この機会にパブリックコメントを通じて声を届けていただけると、私としては大変嬉しく存じます。
- 正確には「指定宗教法人の清算に係る指針案」となりますが、2025年9月現在「指定宗教法人」は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)のみとなります。ですのでこの記事で扱う指針案については、専ら旧統一教会を対象としたものとして扱います。 ↩︎
- 旧統一教会の場合、帰属権利者は「宗教法人 天地正教」となります。 ↩︎
- 指針案原文(資料1), p.3 ↩︎
- 指針案原文(資料1), p.6 ↩︎
- 指針案原文(資料1), p.5 ↩︎
- 指針案原文(資料3), p.11 ↩︎
- 島薗進ほか 『これだけは知っておきたい統一教会問題』 (東洋経済新報社, 2023), あとがき 等 ↩︎
- 第2回検討会: 資料2, pp.9-10: この点は第2回検討委員会において釡井英法委員が指摘しています。「被害救済を拡げるための清算指針であることを明記すべき」 ↩︎