決して「解散命令請求を出したから終わり」ではない――
旧統一教会(世界平和統一家庭連合)に解散命令請求が発出された翌週、NHK「クローズアップ現代」で、解散命令請求の後に立ち現れる「難題」について取り上げた番組が放送されました。
教団・社会それぞれが向き合うべき「課題」
番組では、3名の統一教会2世当事者が置かれている境遇を映し出し、そこから今後の問題点や課題を浮き彫りにしています。
これを受け、長年カルト問題に取り組んできた有識者の方が「教団側」「社会側」それぞれが向き合うべき課題について論じています。
いち当事者の私としても、今後どうこの問題に向き合って行ったらいいのかを考えていたところで、この放送で語られた有識者の方の見解から、考えるヒントを見出しました。
教団側に求められる課題「共生の作法」(櫻井義秀氏)
まず、櫻井義秀氏(宗教社会学者・北海道大学教授)は、教団側に求めらる課題として「共生の作法」というキーワードを挙げています。
この「共生」というのは現実でして、これから数十年間、日本社会、旧統一教会は一緒にやっていかなければいけないんですね。
(中略)宗教を信じる人、信じない人、さまざまな宗教を信じる方々がおられます。自分のところだけが絶対的に正しくて、他はそうではないという、こういう独善的な考え方では一緒にやれないわけなんです。
どうしたら一緒にやれるのかということと、そのためのコミュニケーションスキルを磨いていくことが私は2世信者に求められるし、これからの教団の将来、あるいは日本社会の将来を担っていく方々はコミュニケーションスキルが非常に大事だと思うんです。そういったものを磨いたうえで共生されていくのであれば、日本社会は受け入れるだろうと思っております。
櫻井義秀氏コメント 解散命令請求“その先”に何が~旧統一教会と新たな難題~ (nhk.or.jp)
統一教会の教義に透けて見える「独善性」
「独善的な考えでは一緒にやれない」という指摘について考えます。
私の幼少期・思春期である90年代、統一教会内では一般社会を日常的に「非原理圏」「サタン圏」と称していました。
それは「社会の人たちをメシヤ(救世主。教祖・文鮮明氏)のもとに導くんだ!」という宗教的な動機からくる用語でもあると思いますが、社会を敵視した表現とも取れます。
統一教会は、その教え「統一原理」を「絶対・唯一・不変・永遠の真理」と捉えます。また、日夜「絶対信仰・絶対愛・絶対服従」を唱える儀式文化があります。1韓鶴子総裁の発言2や、反対する者を「左翼」「共産党」という言葉を用いて激しく糾弾する様子からも、自分たちが絶対的に正しく、反対者は敵であるという思想の片鱗が見えています。
信仰の指針として「汝の敵を愛せよ」と言われます。しかしそれ以上に「愛で屈服」という用語が多用されます。
つまり敵対者でさえ自分たちの信じる絶対善の思想(もしくは権威)に跪かせるという考え方で、どうやらそれを「真の愛」と称しているのではないかと(元信者たる)私は考えています。
そうであれば、統一教会の教義や文化の中に強い独善性があることを、残念ながら否定することができません。
「疑う」から「掘り下げる」へ
統一教会は「家庭連合」時代を迎え、地域の奉仕活動も増え、表向きマイルドになったように見えます。
しかし最近のSNS上でみられる現役信者の方の言動、そして教団幹部の対応を見る限り、この教団の組織文化の根幹には、未だ独善性がしっかり根付いているように思います。
そして、その性向は確実に2世世代3にも伝承されていることを、私は感じてしまいます。
「(教義の)本質的なところに対して良さを感じているし、確信を持っている。(それでも)教会の組織のあり方のせいで苦しんでいる人がいるんだったら、そこは教会自身は変わっていかないといけないと思っている」
2世信者へのインタビュー 解散命令請求“その先”に何が~旧統一教会と新たな難題~ (nhk.or.jp)
教会組織のあり方に疑問を感じているけど「本質的なところに確信を持っている」という2世信者の方。しかしその苦しみをもたらす組織文化の原因が、どんな教義や考え方から来ているのか。その本質には何があるのか。
ほとんどの現役信者の方は、こういったことについて考えることを拒否しているように私には感じます。
しかし、ある意味でこれは必然です。「エバが神のみ言(ことば)を疑ったところから堕落が始まった」という教義により「見るな・触れるな・取って食べるな。堕落してはいけないから」と、疑うこと自体タブーとされているのですから。
ならば「疑う」のではなく「掘り下げてみる」と捉えてみるのはどうでしょうか。
たとえば「家庭盟誓8節にある”絶対服従”とは、何に対する”絶対服従”なのか。神様?真の父母様?独生女?」といったことを手掛かりにして考えてみるだけでも、多くの事が見えてくるのではないでしょうか。
それによって教会組織のあり方のどこに問題があるのか、よりクリアに見えてくるでしょう。そして自分自身が今後も信仰を続けるうえで、そういう問題にどう向き合うかということにも、自ずと思いが巡っていくはずです。
おわりに―「共生の作法」への手掛かり
櫻井先生が提言された「共生の作法」への手掛かりは、現役信者の方が「教義を深く掘り下げる」ことにあるのではないかと私は思います。
宗教には、社会一般とは別の価値観を提示したり、社会一般の価値観に「それでいいのか」と疑問を投げかける役割もあるでしょう。
しかし、それは社会をよりよくするための試みであって「社会が私たちに屈服しなければならない」「左翼・共産主義(=自分達への敵対者)の撲滅」といった独善的・排他的な価値観に凝り固まってしまっては、まずい。4
緊張関係を生み出すことは、信者にとっても社会にとっても、何一つ良いことがない。
宗教法人が解散しようとしまいと、信者一人ひとりが今後も社会と共生していかなければいけないのは「現実」なのです。
統一教会の信仰を持つ方には「共生の作法」への取り掛かりという観点から、一度ご自身の信心について、今までと違う視点から「考えて」みてほしい。
元信者として、私はそう願っています。
社会側の課題としてジャーナリストの江川紹子氏が提案した「普通の人間関係」についての記事も、併せてお読みいただけると幸いです。↓
- 「八、天一国主人、私たちの家庭は、真の愛を中心として、天一国時代を迎え、絶対信仰、絶対愛、絶対服従によって、神人愛一体理想を成し、地上天国と天上天国の解放圏と釈放圏を完成することをお誓い致します。」―家庭盟誓 | 世界平和統一家庭連合 教会員ポータルサイト FFWPU.Family ↩︎
- 韓鶴子総裁「岸田を呼びつけて教育を受けさせなさい」内部音声を独自入手「日本の政治は滅びるしかないわよね」旧統一教会|TBS NEWS DIG – YouTube ↩︎
- 2世信者に限定せず、概ね20~30代の1世信者の方も含めて「2世世代」としています ↩︎
- 逆に、たとえば「反日カルトは日本から出て行け」といったような考え方も、独善性や排他性を含んでおり、これも統一教会的思考。やはり「共生」とは、決して避けて通れない課題であろうと私は考えています ↩︎