宗教学者・大田俊寛氏が教団系メディア「世界日報」のインタビューに応じ、統一教会(現・家庭連合)について語った内容に看過できない点があります。
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インタビューは上・中・下の3部構成となっていますが、特に「中」の内容について述べたいと思います。
文鮮明は「ハト派」?
インタビュー冒頭で大田氏は「私自身は統一教会の研究を行ったことがなく、詳しいことは分からない。」と述べておられます。しかしそもそも、宗教学者として、詳しいことは分からない教団について、その教団系の媒体で発言することは、少々危ういことのように思います。
私自身は統一教会の研究を行ったことがなく、詳しいことは分からない。しかしながら、開祖である文鮮明氏に麻原のような破壊衝動があったとは思われない。どちらかと言えば「ハト派」の人物で、平和的な方法で世界をユートピアに変えていきたいと考えていたのではないか。しばしば短絡的に、オウムと統一教会を同一視する言説が見られるが、私には首肯できない。
キリスト教的な「真の愛」「為に生きる」といった教団のスローガンや、結婚(祝福)を通じて真の愛の家庭を築くといった表面的な部分だけを見れば「ハト派」で「平和的な方法」と捉えられるかも知れません。
「麻原のような破壊衝動」ではないにせよ、文鮮明と統一教会を特徴づけるものに「恨(ハン)」があります。1
文鮮明の「恨を解く」という強い情念が、特に日本と日本信者に対する徹底的な犠牲と奉仕を長年にわたって求め続け、それが結果として東京地裁をして「類例のない甚大な被害」とまで言わしめるものになってしまったのであれば、文鮮明が「ハト派」で「平和的な方法」を取ったとは、ちょっと言い難いように私は思います。
勝共連合が「友好団体」?
友好団体の一つである国際勝共連合に関しては、銃砲店の経営が行われ、散弾銃で武装化した勢力が存在していたのではないかということが、一部で囁(ささや)かれている。それについても私には確かなことが言えないが、当時はむしろ急進的な左翼勢力の暴力性が際立っており、それと対峙(たいじ)していた勝共連合も、何らかの仕方で自己防衛しなければならないという思いに駆られたのではないか。こうした点については、当事者からの正確な説明が必要で、それを怠ると、過剰な危険視や陰謀論の温床になってしまう。
統一教会の政治部門・国際勝共連合について「友好団体の一つ」と捉えておられる点は見逃せません。勝共連合は、創始者も構成員も統一教会そのものであり、事実上一体といえるものです。2しかも勝共連合は関連企業(幸世物産)を通じ2,500丁もの散弾銃を韓国から日本へ輸入し、1971年3月26日の国会質疑で問題にされたこともあります。3こんな重大なことが、実質的な宗教者・宗教団体によって行われてきた事実があります。
昨年7月、元幹部の大江益夫氏による『懺悔録』4が発刊され、軍事訓練やクーデター計画などの暴露があったものの、統一教会・勝共連合はともに否定しており5、当事者による正確な説明は期待できる状況とはいえません。もはや第3者に調査や再捜査といった手段によらなければ、正確なことは分かりかねる状況です。
ですので「確かなことはいえない」と断っているとはいえ「急進的な左翼勢力と対峙しようという思いに駆られたのではないか」と不用意にメディアで述べてしまうのは、宗教学者の発言としては危ういものがあるように私には感じられます。
教団の掲げる「理想」と現実
近年の家庭連合は、教団に対する理解を得るためにさまざまなPRを行っているが、私自身はその中で、「地上天国の建設」という中心的理念についてあまり触れられていないことに疑念を持っている。このテーマについて丁寧に説明し、一般社会との間で率直な議論が交わされない状態では、教団への理解が深まり、全体的なイメージが変わるということも起こらないだろう。
「地上天国の建設」とはつまるところ、人類すべてが教祖・文鮮明夫妻を「天の父母様」と認め、万王の王として戴くこと――元信者としては、そのように理解しています。
だとしたら、このような「中心理念」を率直に明かしても、一般社会や他宗教との「率直な議論」にはなり得ません。むしろ過去に積み上った関連する判決や、おびただしい被害の実態を証拠に、「この理念は誤っているのでは」と言われてしまいかねない。しかも、反論はなかなか難しい。そうすれば逆に、教団に対するイメージを悪化させてしまうことにも繋がります。
ですから教団側は「宗教迫害」「信教の自由の侵害」等の主張をメインに据え、中心理念に基づく議論を堂々と展開するのは、到底難しいのではないかと思います。
まとめ:宗教学者としての発言責任
宗教団体について語ることには、専門家であっても慎重さが求められます。とりわけ統一教会(現・家庭連合)は、宗教の名のもとに社会的・経済的・政治的にも大きな影響を及ぼしてきた存在であり、ただの「教義の問題」や「イメージの修正」では捉えきれない複雑な実態があります。
大田俊寛氏が「詳しくは分からない」と前置きしながらも、教団系メディアで一定の評価を語ったことは、やはり影響の大きさを考えれば看過できません。意図せぬ形で被害の矮小化や、教団の主張に与するような印象を与えてしまう危険があるからです。
これは、特定の立場を否定するというよりも、「語る」責任を問う姿勢です。宗教学者という立場から発言する以上、事実に基づいた多角的な視点が不可欠であり、特に加害構造を抱える宗教団体について語るときには、その被害や社会的影響を正確に捉えた上で論じることが重要です。この点はオウム事件の際の反省として、宗教研究者によって指摘されている部分でもあります。6
発言が、過去の被害や教団の構造的な問題を見過ごさせる材料とならないよう、私たちはその点を問い続ける必要があると思います。
- 古田富建. 「『恨』と統一教」. 東京大学宗教学年報, vol. 27. 東京大学文学部宗教学研究室, 2009年, pp. 45–60. ↩︎
- 同じく「関連団体」の1つである世界平和女性連合について「創始者が同じ」「統一教会総裁によって会長が任命される」「最高権威が統一教会教祖にある」という3点において、教団と同一性があるとした趣旨の判決が出ています。(多田文明氏のレポート)この3点は国際勝共連合においても同じ事情であることから、勝共連合も教団と事実上一体のものとみなせます。 ↩︎
- 有田芳生. 誰も書かなかった統一教会. 集英社, 2024年. p.191 ↩︎
- 大江益夫, 樋田毅. 旧統一教会大江益夫・元広報部長懺悔録. 光文社, 2024年. ↩︎
- 虚偽に満ちた〝妄想の懺悔録〟|真の父母様宣布文サイト
大江益夫氏『懺悔録』に対する国際勝共連合代理人弁護士からの通知書を公開|国際勝共連合 ↩︎ - 平野直子, 塚田穂高. 「メディア報道への宗教情報リテラシー」. 「オウム真理教」を検証する : そのウチとソトの境界線, 春秋社, 2015年. ↩︎