財産保全の必要性―23.11.17野党国対ヒアリング報告

2023年11月17日(金)、統一教会問題に関する第62回野党国対ヒアリングが開催され、2世元信者という立場で私も参加させていただきました。(関連報道記事はこちら

まず何より、今、多くの方が統一教会の被害者救済のためご尽力いただいていることに、当事者の一人として深く感謝を申し上げます。

ここで述べさせていただいた内容を加筆修正しブログ記事にしてみました。拙いながら、この問題を考える際の一助となれば嬉しいと思っています。

目次

統一教会の財産保全を巡る議論

統一教会(世界平和統一家庭連合)の解散命令請求を受け、現在、国会では教団の財産保全について超党派での議論が進んでいます。

これは、被害者の賠償に充てられるべき教団の財産が散逸してしまうことを防ぐために、具体的な被害回復の前段階において必要とされている措置です。

既に野党からは立憲案・維新案が提出されており、どちらにも財産保全が盛り込まれています。しかし与党プロジェクトチーム(PT)の法案では「被害者が訴訟を起こす際の費用支援」「教団が不動産を処分する際の報告義務」がメインとなっており、財産保全については「信教の自由に関わる」とされ見送られることが報じられています。

国民民主党も与党(自民・公明)と共同で法案を提出するという報が入りました
旧統一教会被害者救済法案 国民民主が自公と共同提出へ (tv-asahi.co.jp)
[2023/11/20 16:08]

この日のヒアリングでは、私も含めた参加者から「与党PT案だけでは被害回復が十分でない」「形だけでなく実効性のある法律を作ってほしい」という意見が出されました。

元2世信者の私からは、主に「2世の救済」という点から、次のようなことを述べさせていただきました。

訴訟支援だけでは2世の被害は救済されない

今回の与党PT案で私が一番気になっているのは2世がどのように救済されるのか」が見えにくいという点です。

統一教会が集めた献金は「宗教心にかこつけた集金活動」によるものが大半。今回、政府(文化庁)による大規模な調査によってそれが認められ、教団への解散命令請求へとつながりました。

親(1世)が統一教会における不当な活動に巻き込まれることで、子(2世)が親の借金を返したり親の生活を援助したり、無年金の親を扶養しているケースも、決して少なくありません。こういう2世こそ、実効性のある措置で早急に救済される必要があります。

しかし、与党PT案で示していただいた訴訟費用の支援だけでは、2世の被害救済は、ほぼ不可能です。

まず、2世には親(1世)が行った献金の返金を求めることができません。12世が返金を求める場合、まずは親を説得して教団に返金交渉をするよう促すことになるでしょう。

親が説得に応じなければ、最悪2世自身が親なり教団を訴え、慰謝料請求という形ででも取り返すしかないかもしれません。しかし、ただでさえ全人的な抑圧を受けている2世が、そのような訴訟を起こすこと自体が難しいいかに費用面で支援があったとしても、心理的にも時間的にも、あまりにも無理があるものです

教団を訴えることの難しさ

この日、同じくヒアリングに参加された被害者の中野容子さん(仮名)は、7年にもわたり教団との交渉・損害賠償裁判をされている方です。そのご経験から、教団と裁判で争うことがいかに過酷なものであるかについてお話しくださいました。

「被害者の現状をしっかりと見ていただきたい。司法手続というのはあまりにも負担が大きいもので、(法案の)司法手続に対して支援しますよ、というようなものだけでは現実的ではありません。私自身が長い間、裁判を戦って、この(旧統一教会との)裁判がいかに過酷なものかをよく知っています。私が裁判を提起した時、母は87歳でしたから、そういう人が裁判を戦っていくというのは、どれほど辛いことかはおわかりになるのではないでしょうか。さらに(教団から)誹謗中傷されることもあり、本当に辛い。こういう組織を相手に対して被害者一人一人が交渉して、裁判をして被害を回復してというのは、本当に過酷です。被害者を救済しようという道をきちっと用意してほしい」

被害者へ過酷な負担を強いる与党PT案 憲法違反の疑いに旧統一教会の主張と重なるのではないかとの指摘も(多田文明) – エキスパート – Yahoo!ニュース

不誠実な対応や被害を訴える方への誹謗中傷。罵詈雑言。損害賠償請求とは無関係な陰謀論めいた内容等を言われる等、たいへんな精神的負担を強いられるとのことです。

実効性のある救済策を!

以上のように、与党PT案が示す訴訟支援だけでは当事者の多大な自助努力が不可欠となり「被害者を守る」という法案の目的を果たすには、不十分と言わざるを得ません。

私としては特に理不尽に足かせをはめられた2世に対し、たとえば「自分の親を訴えて献金を返してもらい、その金で親を養ってください」と突き放すような政治であってほしくはないと考えています。

どうか、当事者のおかれたこのような事情についても十分に考慮し、実効性のある救済策を講じていただけるよう、切に願っております。

 財産保全について

次に、本件で最大の焦点となっている、教団の財産保全措置に関する内容です。

教団の財産を保全する必要性・妥当性は十分にある

先に述べたように、統一教会が築いた資産は「宗教心にかこつけて不当に搾取したもの」が大半です。しかも、それを「持参K」などと称し、信者に海外へ運ばせていた過去もあります。

そして、この教団は長年にわたって組織的な搾取を繰り返してきました。それによって信者本人はもちろん2世や家族親戚、ひいては日本社会全体に、数値では計り得ないほどの深刻かつ甚大な被害を生み出したものと私は考えています。

今回、文化庁による国家的な調査によって、ようやくその被害が政府に認められました。文部科学大臣が、国としてこれを長年見過ごしてしまったことについて問われ「返す言葉がない」と回答されているのです。2

であれば、被害の回復に充てるための財産がなくなってしまわないよう、国として教団の財産を包括的に保全しておく措置はどうしても必要になりますし、その妥当性十分にあるものと私は考えます。

財産保全が「信教の自由」に関わるという論議

ところが今回、与党PTが作成してくださった法案には、その財産保全が含まれていません。

財産保全は信教の自由(日本国憲法第20条)に関わる「憲法違反」のおそれがあるということなのだそうですが、与党側からその根拠が示されず「とりつく島もない」状態なのだとか。3

財産保全を盛り込んだ法案を提出している立憲民主党の長妻昭政調会長は「憲法違反(の疑い)」とされたことについて、この日のヒアリングで強く反論されています。

一部の議員から(財産保全の特別措置法が)憲法違反だと話をされる方がおられますが、衆議院の法制局に失礼な話だと思います。我々が勝手に作って出しているわけではなく、衆議院の法制局という優秀な方々が憲法違反かどうかの吟味を重ねて、憲法違反ではないという結論で法律を出しています。これを憲法違反だという方や疑いのあるという方は、衆議院の法制局、自分たちが属する委員の組織に、天に唾をするようなものだと思います

被害者へ過酷な負担を強いる与党PT案 憲法違反の疑いに旧統一教会の主張と重なるのではないかとの指摘も(多田文明) – エキスパート – Yahoo!ニュース

憲法は「信教の自由」だけではない

これは素人の考えに過ぎませんが、もし憲法を論じるのなら、この教団の活動によって発生した被害によって「信者や2世が違憲状態に置かれた(現在も置かれている)可能性」についても考える必要あるのではないかと思います。

昨年の事件以来、統一教会の元信者・2世が次々と声を上げ証言してきたような被害は、信者・2世である国民が基本的人権(同11条)・幸福追求権(同13条)さらには生存権(同25条)さえをも侵害された可能性があると捉えられないでしょうか。

〔基本的人権〕

第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

〔個人の尊重と公共の福祉〕

第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

〔生存権及び国民生活の社会的進歩向上に努める国の義務〕

第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

日本国憲法

もしそうであれば、今のところ明確な根拠が示されない「信教の自由(20条)に関わるおそれ」より、具体的に権利を侵害された国民(信者・2世)の被害回復を優先し、その手段の一つとして財産保全を行うほうが、憲法遵守という点でも大いに妥当なのではないだろうかと私は考えるものです。

おわりに

長年見過ごされてきた統一教会問題について、与野党問わず被害回復の議論をしていただいていること。立憲民主党を中心とする野党をはじめ、今回初めて被害者の声を聞きPTを結成して法案提出して下さった与党の皆様にも、当事者の一人として、改めて心から感謝を申し上げます。

ただ、昨年制定していただた、いわゆる「救済新法」4については、その実効性の乏しさが指摘されてもいます。ですので、今回こそはどこまでも「実効性のある救済措置」をお願いしたいです。

私個人としては、事件以降通算62回もヒアリングを開催し、当事者の声や被害弁護団の先生の意見を聞き続けて下さった立憲民主党の法案が、実効性という点では現状最も適切ではないかと感じているところです。

憲法に関する部分も、とても重要なことですので、専門家の先生方で議論をしていただければ、とても嬉しく存じます。

そして、旧統一教会の被害者救済は、私たち当事者だけの問題ではありません。何十年にもわたり、かくも甚大な被害が見過ごされてしまったのは、明らかに日本社会全体の問題であり今後の課題

被害者が泣き寝入りを強いられる社会でなく、自助努力が不可能な部分を政治が力強く補ってくれるような社会を今後つくっていくのかどうか。

統一教会問題は、その試金石になるものであると私は思っています。(完)


第62回野党国体ヒアリングに関する報道記事

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  1. 親の財産権があるので、子が親の行った献金の返金を請求することは不可 ↩︎
  2. 旧統一教会の解散命令を請求 東京地裁に 高額被害40年把握できず、盛山文科相「返す言葉がない」:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp) ↩︎
  3. 「自民の主張は旧統一教会と重なって見える」 立憲・長妻政調会長 [立憲] [自民]:朝日新聞デジタル (asahi.com) ↩︎
  4. 法人等による寄付の不当な勧誘の防止等に関する法律 ↩︎
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田村 一朗(仮)のアバター 田村 一朗(仮) HN: インセム(인샘)

旧統一教会(世界平和統一家庭連合)
2世元信者 信仰2世(ヤコブ)

この教団に長く身を置いてしまったことを悔いています。統一教会とは何なのか。なぜ信じたのか。この教団は日本社会にどんな影響を与えたのか。問い続けていきたいです。

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